つぎはぎアンドロイドと俺の七日間・5

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 四日目。
 こんなことならアルバイトでもすればよかったなと、サークルにも入ってない、友達の少ない暇な大学生の俺は今更後悔する。
 結局だらだらと寝て食べてを繰り返して過ごし、そして当然のように昼夜逆転して夜中眠れない。
 寝ようと努力はしたものの、目が冴えてしまって、俺はベッドから起き上がってパソコンをつけた。暗いなかで悶々としていると、よくない考えばかりがめぐる。ほとんどがオヤジのことだ。
 テレビをつけてもみたが、今は大御所俳優が大昔、若い頃に出ていたB級ホラー映画ぐらいしかみるものがなく、その映画も視聴十分でよくない結末になることだけは簡単に想像できたから、余計に眠れなくなるとすぐに消した。
 掲示板で、ホームメイドロボのスレッドをいくつか読み漁る。スワン社の最新機種RNH型にはWI‐fi機能が備わっているそうだが、相変わらずバッテリーが貧弱だとか、純日本製ロボ・撫子の琴演奏機能は無駄すぎるだとか。発売されてもう何年もたっているMDK型の情報はほとんどない。専用スレは一応存在したが、最後の書き込みは半年前、それも荒らしのものだった。
 ロボの記憶録画を公開して楽しむスレッドを眺めて、ふと、アサヒのあの事故動画を公開したら、なにか情報が得られるのではないかと思い付いた。
「まだ起きてるのか」
「うわっ」
 アサヒを起こそうかとドアの方へ視線を向けると、暗がりに青くぼんやりと光る目玉が二つ浮かんでいて、俺は思わず悲鳴をあげた。
 もちろん、アサヒだった。
「な、なんだよ、お前こそなにしてるんだよ」
 十数分とはいえ先程までホラー映画を見ていたから、余計に驚いた。そんな俺にアサヒは不満そうな顔をして、こちらに近づいてくる。
「なにって、夜の見回り」
「見回り? お屋敷ならともかく、うちみたいなマンションで必要ねぇよ……」
 そういえば動画のなかでの蜜花の家は、カントリー風の一軒屋のようだったなと思い出す。住んでたのは老人一人だったようだし、防犯には気を付けていたのだろう。
「そーなの? でもお前昨日腹だして寝てたし。今日もそうかもと思って」
「お母さんかよ」
 まったく気づかないで寝ていた。確かに朝はタオルケットがかかってたけど。
「なにしてんだよ、寝ろよ」
「寝るけどさ」
 パソコンを覗きこんだアサヒは、ふうんとどこか鼻で笑う。記憶動画スレが開きっぱなしだった。また覗かれた。
「前もオレの記憶みてたし、こういうの趣味なの?」
「ちっげーよ。前は興味だけど、今回は暇潰し!」
 覗き趣味みたいに思われて、不名誉なこと甚だしい。そっちこそ人のパソコン画面みるの止めてほしい。
「あと、お前が前の主人のこと気にしてたから、こういうの利用すればなんか分かるんじゃないかって」
 付け足した言い訳に、アサヒはハァ? と眉を顰める。
「余計なこと考えてなくていーから、ほらベッド行って寝ろ。ホットミルクでも用意してやろうか?」
「この熱帯夜にホットミルク!?」
「蜜花は真夏でも飲んでたけど」
 追いたてられるように俺はベッドに押し込められ、タオルケットをかけられて胸の辺りをぽんぽんされた。子守りじゃないんだから。
「前の家に行けば、ユウヒがどうなったかだって」
 なおも食い下がった俺に、アサヒは首を振る。
「いーっての。絵本でも読んでやろうか?」
「ガキじゃないっての。……もういい」
 ぽんぽんを続けるアサヒの腕を振り払い、寝返りを打って背中を向ける。アサヒはその場にずっといたようだったが、あんなに眠れなかったはずなのに、俺はすとんと眠ってしまったのだった。


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