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● 魔法長女 すいかwithべいびぃ --- 1.七時十二分の寝坊 ●

「ぎゃああああ寝坊したああああ!」
 悲鳴から始まってしまってごめんなさい。
 はじめまして! 私の名前は大畑 粋花すいか。趣味はお菓子作りで、特技が十キロの肥料を抱えて一キロ先の畑まで全力疾走できることの、体力だけが取り柄みたいな中学三年生です。
 まあ自己紹介は追々していくとして、話を戻しましょう。突然ですが、今ピンチ、いや大ピンチなのです。
「お、おかあさあああん!」
 落っこちそうな勢いで階段を下りて、居間に飛び込んだ私を出迎えたのは、お味噌汁のいい匂いに、かちゃかちゃと食器を洗う音でした。
――あちゃー、やってもうた。
「あら、おはよう」
 大慌ての私に、洗い物の手を止めたお母さんが振り向いて、なんでもないように微笑みかけて挨拶してくれたけど、起きた瞬間から怒られると思って焦っていた私としては、逆に申し分けない気持ちでいっぱい。
 というのも、朝ご飯を作るのは私の仕事でした。この時間、お母さんは本当ならもう朝ご飯をとっくに終えて、お祖父ちゃんやお父さんたちと畑に出ているはずなのです、はい。
「おはようお母さん、あの、ごめんね……?」
 私が謝ると、お母さんは肩を竦め呆れ顔であるけれど、「いいわよ」と首を横に降りました。
「まあ、たまには仕方ない。昨日一昨日と、畑仕事で疲れてるだろうし……夕べも遅くまで起きてたんでしょ?」
 お母さんは手を拭きながらそう言って、ガス台の前に立ち、コンロのつまみを回してお味噌汁の鍋に再び火を入れ、続けて鮭を焼き始めました。
「……え?」
「受験生だし勉強も大事だけど、今からはりきりすぎて、受験前にバテちゃわないでよ」
 その言葉に困惑してぽかんと突っ立っていると、振り返ったお母さんの目に若干の苛立ちが浮かんだように見えました。あ、やばい。
「ほら、早く顔洗ってきなさい。もたもたしてると遅刻するよ!」
「はいっ!」
 慌てて私は洗面所に向かおうとして、一度思いとどまって振り返り、お母さんの背中を見ました。
「ねぇ、雨莉うりは?」
 雨莉とは、妹の名です。歳は離れに離れて、なんと十四歳差。つまりまだ一歳! これがまた可愛くて可愛くて……いやその話はとても長くなるので、またあとでします。
「ん? まだ寝てるじゃない。起こしちゃだめよ」
 当然すぎる答えが返ってきました。
 それもそうだよね。
「……うん、大丈夫」
 一体何が大丈夫なのかと不思議そうなお母さんにそう答え、今度こそ、洗面所に向かいました。

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