繋がる星と願いと

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2030年3月20日〜4月

「やあ、輪華ちゃん。こんばんは」
「松村さん! 今日はお招きありがとうございます」
 二十三時をすぎてようやくたどり着いた会場となる小高い丘の公園で、松村氏が輪華を出迎えてくれた。今日の企画立案と主催は、彼だった。
「ギリギリ、なんとか間に合ったね。ほらご覧、西の地平線だよ」
 輪華は彼が指差した方角を向いた。どうやら義眼の設定はうまくいったようだ。たくさんの星の中、蒼く輝くシリウスが見える。
 あと一時間もしないうちに地平線の向こうへ消えてしまうその輝きを、輪華は目に焼き付けるように、じっとそれを見つめる。
 ふと輪華は周囲を見回した。皆一様に夜空を見上げ、散らばる星を指差して星をつなげ、星座を見出そうとしている。
 思わず微笑んだ輪華に、犬養さんがまだ冷えるからとダウンジャケットを貸してくれた。母親も持参したカイロを出してくれる。
「ありがとう」
「いーえ」
「どういたしまして」
 二人はそろって笑って、再び空を見上げた。天体望遠鏡も使ってみるといいよ、と松村さんが手招きして呼んでくれる。
 輪華は、車の中で考えていたことに、答えを見つけたと気が付いた。
――本当は、生まれたときからずっと皆との繋がりの中で、輪華は守られていた。けれど幸せだったときは、それが当たり前で見えなかった。でも今は、いろいろな人との絆がとても愛おしく思える……。
 望遠鏡の中、シリウスが笑うように、輝く。

 ☆☆☆

――春。
 開け放った窓から、桜の並木が見える。
 一瞬意識を窓の外にやった輪華だったが、すぐに正面に向き直った。今日からボランティア先の幼稚園の年少さんになった小さな子供たちが、輪華の前で期待に目を輝かせて並んでいるのだ。
「さあみなさん、こちらが毎週絵本の時間にご本を読んでくれる、うさぎさんの輪華ちゃんです。元気にご挨拶しましょうね」
 園長先生の声を合図に、ゆっくりと輪華の代わりにピンク色のウサギのぬいぐるみ――サクラが前に歩み出る。ぺこりと耳を振って一礼した。
「みなさん初めまして、睦月輪華です。これからたくさん、一緒に絵本を読みましょうね」
「はーい」
 園児たちの元気なお返事がそろう。
 開け放った窓から、桜の花びらがふわりと舞った。

(終)
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