白い呪い

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 我が家の男子には十八才になると必ず立ち向かわなければならない試練がある。
 ひいじいさまの話によれば、江戸時代あたりから続く試練らしい。試練というか呪いである。正直私は女子だし、そもそも眉唾だと今まで信じてなかったけど、二歳上の兄が三十分ほど前に十八の誕生日を迎え、ついに試練と対面した。
「ヨシは白鳥か。まあ白虎じゃなくてよかったなぁ」
 呑気に笑って父さんは寝室に去っていった。母さんに至っては試練を見守ることすらせずに就寝だ。私は居間に一人で取り残され、呆然とテーブルの上の兄を見つめる。
 一羽の白鳥がそこにいた。
 曰く、ご先祖様が日光で動物を虐め、以来我が家の男子は白い獣にとり憑かれているらしい。よって十八才になると獣の姿になるとか。白なのは代々腹黒なのを戒めるためだとお祖母ちゃんは言うけど、こっちは本当に嘘っぽい。
 ちなみに父さんは白猫、叔父さんは白兎、お祖父ちゃんは白狐、ひいじいさまは白雉。お祖父ちゃんの弟に当たる人はなんと白魚だったらしい。それは獣じゃない気がする。突っ込んだら負けなのか。
「で、どうすれば人間に戻るの? 無言でいら草でも編めばいいの?」
 昨日おやつのたい焼きを盗られた兄さんなんかのためにそこまで出来るか怪しいので、もっと手軽な方法でお願いしたい。
 白鳥兄はいやいやと首を横にふり、ペン立てからボールペンを嘴でくわえて引き抜くと、メモ帳に器用に文字を書く。数分前に動物化したばかりだというのに、随分慣れてんな。
「三日間西に頭を向けて八時間寝て、好き嫌いなく肉と魚と野菜をバランスよくたっぷり食べると戻る」
「最初以外は健康的!」
 心はもう許しを乞うために日光のひとつ手前くらいまで行ってたのに!


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書いたの:2015/10/25フリーワンライ企画にて
お題:白鳥 日光のひとつ手前
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