自己中はどっち?

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  神様なんていない、みんな知ってると思っていた。
「お願いします神様、どうかお願いします」
 隣でマイが祈っている。指を組み、両目を閉じて必死にブツブツと呟いている。彼女には神様がいるらしい。そういうタイプが居ると聞いていたけれど、初めて見たなと思う。
「ここを乗り切れるなら、もう一生と甘い物を食べません。だから助けてください!」
 自らの願望の為に、彼女は一番の好物を絶とうとしているらしい。
――ここを乗り切れるなら、か。
 それには好物を絶つだけで済まされないことに、彼女は気が付いてないんだろうか。
「二人とも、前へ」
 イヤホンから聞こえてきた声を合図に私は一歩踏み出して腰に携えた剣を引き抜いた。と言っても模造刀だ。だってこれは授業だもの。補習授業。
「お願いします。お願いします」
「……ユイ」
 イヤホンの声が聞こえていないのかまだ必死に祈っているユイに声をかけると、まるで死刑判決でも出たみたいにびくりと彼女は顔を上げた。ヒィ、と彼女の喉から洩れた声に、気分が悪くなる。まるで私が悪いみたい。
「アスカ、助けて、お願い。一生のお願いだから」 
 震える手でユイが剣を構える。
「それ、何度目の一生のお願い?」
 笑って私が返した言葉にユイが絶望的な表情を浮かべた。
 少なくとも、前に一度『一生のお願い』を聞いて同じような剣術のテストに協力しているはずだ。彼女の剣術は見ているとはらはらするレベルで、私の協力という名の八百長なしで、私に勝てるはずがない。
 私はサボリ故の出席日数不足、彼女は病弱故の出席日数不足。まあどちらが悪いかと言われれば私だろう。なのに嗚呼、生き残って進級できるのはどちらかなんて。ただの補習だった以前のテストとは事情がちがう。
 彼女が甘い物を絶つのなら、私は唯一の親友を絶つ。
「ごめんなさい、ユイの神様」
 皮肉を言うような気分で私は呟く。敬遠な信者がまた一人、助けてくれない無能への信仰をやめるかもしれない。 


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書いたの:2018/2/19二代目フリーワンライ企画にて
お題:ごめんなさい神様 はらはら みんな知ってる
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