繋がらない手

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 彼女に遭ったのは、その日が最後だった。
 小学校最後の夏休みの最後日、夕焼けで紅く染まった公園のブランコの上はぎいぎいと悲しげに軋んだ音を鳴らす。
「ドッペルゲンガーに出会ってしまったら、死んでしまうんだって」
 そのブランコに負けないくらい悲しそうな顔をした彼女は、私と同じ顔をしているはずなのに、私には到底同じ表情ができる気がしなかった。同じくらい悲しいのは確かなのに、現実感がないまま今日一日私は彼女の影のように張り付いている。
「じゃあ、私たちも死んでしまうの?」
「そりゃあどちらにせよ死ぬ運命でしょ、人間なんだし」
 元々は一つだったらしい私たちの肉体は、生まれる大分前に二つに分離して、そして生まれて二年で両親によって距離的にも引き離された。
 だからだろうか、月に一度の面会の間、私たちはなるべくずっと、出きる限りの間手を繋ぐ。また一つに戻りたいけれどそれは無理だから、その代替として手を繋ぐ。
「でも、私よりあとに死んでね。私を残さないでね」
 繋いだ手とは反対の空いた手で、彼女は私の頬を撫でた。
 私も彼女の頬に触れながら、けれどゆるりと頭を振る。
「いやだよ。あなたの方こそあとに死んで」
 同じ主張に、彼女は困った顔で首をかしげた。
「じゃあ、一緒がいいね」
「うん。一緒に死ねたらいいね」
 きっとずっと遠い未来のことだ。どちらが先に死ぬかなんて分かりっこないし、一緒死ねるなんてたぶん無理だ。
 私たちはもう二度と一緒になれやしない。
「約束よ」
「うん」
 同じ顔で微笑みあって頷く。
 指切りをして、二人で紅い空を見上げた。


 彼女に遭ったのは、その日が最後だった。
 同じ公園で一人でブランコを漕ぐ。
 昼頃に降った雨の名残として残る水溜まりには、きっと彼女の方が着こなせただろう高校の制服の私が映っている。
 あれから彼女は父の仕事で海を渡った。次に遭えるのはいつか、もう誰にもわからない。


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書いたの:2016/6/3フリーワンライ企画にて
お題:ドッペルゲンガー 運命 紅い空
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