毒入りティータイム

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「最近日々がうす味で」
 ため息混じりに言いながら、くるくると人差し指に髪の毛が巻き付いていくのを身ながら、僕は「はあ」と相槌を打つ。
「なにか刺激になるようなことないかしら」
 すごい挑発だ。
 毒入りのはずの紅茶をぐびぐび飲みながら、魔女は本当に退屈そうに目を伏せる。
 思っても見ない想定外のパターンだ。いや、毒入り紅茶が効かないのは想定内だけど。もう何度も試して駄目なのは知っているはずなのに、なんとなく習慣で毒を混入してしまっている。今日のはエゾトリカブト。わざわざ異世界の僻地から取り寄せたのに、今日も彼女の刺激にすらない。毒に耐性のある僕ですら、今日の毒は舌にビリリと痛いのに。
 目の前のこの化け物を倒してくれ、と依頼を受けたのはもう一年も前だ。
 元々下女として仕えていた女に成り代わって魔女の懐に潜り込んだのは良いが、ご覧のとおり、未だ成果は出ない。これでは先に犠牲になった下女も屋敷の庭の下で泣いているだろう。
「……何か新しいことでも初めてみてはいかかでしょうか」
 毒を飲まされていることに、魔女が気づいていないわけがない。当然僕の正体はバレている。なのに殺さないどころか手元に置き続けている程度には、本当に魔女は退屈を倦んでいる。とはいえそれすら刺激にならないのでは、僕の命もいつかき消されるかわかったもんじゃない。
「とはいえ思いつく限りこの世の娯楽はやりつくしたわ。何か案があって?」
――いっそ死んでみては。
 と口に出しそうになって、すんでのところで押しとどめた。
 言えば本当に死んでくれそうな気がする。それだけは経験がないはずだ。目を輝かせて、「それはいいわね!」と言ってくれそうな気がする。だが、そうしたら負けな気がする。
 魔女は相変わらず指に髪の毛を巻きつけながら、僕の返事には端から期待していないような顔をしている。
 最初はその癖を見るたびに、任務に支障があるから切り落とした自分の髪を思い出していたが、もうそれもない。かつて愛した人たちが美しいと褒めてくれた長髪を大事にしていたが、切ってしまえば短髪も楽だ。そう思うようになってしまったことに気づいた時、愕然とした。任務さえ終われば取り戻せるはずの宝物が、どうでもよくなっている。
「……そういう真面目なところが、嫌いになれないのよねえ」
 見透かした目で魔女が笑い、ごちそうさまとティールームを去って行った。


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書いたの:2018/2/23二代目フリーワンライ企画にて
お題:想定外のパターン ししょう(支障) うす味
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