晴天の逢魔が時

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 天気予報が嘘つきなのか、それとも予報士を騙した空のほうが嘘つきなのか。
 すっかり無用の長物の長傘を引きずりながら、私はため息をついた。嘘は嘘でも逆よりましだと言い聞かせつつも、晴天の下の傘は荷物になる。それでなくとも男子が傘を振り回して、自由研究で作った木で出来た玩具を壊すし、最悪だ。壊れた玩具を抱えると、一緒に作ってくれたお父さんの顔を思い浮かべてしまって涙が出そうになる。
「直るかなぁ……」
 滲んだ眼を手首で拭い、涙がこぼれてこないように見上げると、鼻の頭にぽたりと一粒の水が落ちてきた。
 雨――のはずがない。夕暮れの空には、雲一つない。
 かたんと、私は傘の柄を取り落とした。
「嘘つき……」
 電柱の上に大きな傘を広げて何かが立っていた。それは人のように見えたけれど、なんの道具もなく電柱の上なんかに立つモノが人であるはずがない。
「嘘つき、嘘つき、嘘つき」
 見上げる私に気づきもせずに、それは切なげに繰り返す。
「連れてきてくれるって、言ったのに」
 それだけ言い捨てて、ソレは音もなく消え去る。
 私はしばらくの間その場に立ち尽くしてから、急に鼻先が気持ち悪く感じて慌てて手の平で拭いた。
 傘を拾い上げると、走って家路についたのだった。 




――その次の雨の日、同じ場所で車が電柱に激突する事故が起きた。
 目撃者の話によれば車の目の前に大きな傘が飛び出したのだと言うけれど、周囲にそれらしきものはなかったそうだ。


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書いたの:2016/7/23フリーワンライ企画にて
お題:一粒の水 嘘つきの空 壊れた玩具
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