モラトリア充

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「サルがでない」
「出てるじゃん」
「これじゃないのー!」
 原島の叫びと同時に、カーンと甲高い音がした。二人して反射的にグラウンドへ顔を向けると、白球がネットに突き刺さるところだった。跳ね返ってくるかと思いきや、うまい具合に、というか悪い具合に網目の隙間に挟まったらしい。
「三橋飛ばしすぎ!」
「わっりー!」
 ピッチャーの村田の非難に全く悪びれていない様子の三橋がバッドをその場に投げ捨ててネットに向かって走り出す。どうするつもりなのか。よじ登るつもりにしては、位置が高すぎる。
「ねー手伝ってよー。サルー」
 コンビニの袋に入った小箱をバラバラとベンチの上に落としながら、原島が話を元に戻す。中身は同じ食玩だ。世界の猿とかいう名前の商品で、その名の通りニホンザルやらキンシコウやらのフィギュアが卵型のチョコレートの中に入っている。
 原島の目的はすでにコンプリートではなく、特定のサルについているQRコードを読み取って抽選に応募するためで、彼の好きなアニメのキャラとコラボしたフィギュアがさらにもらえるらしい。
「えーもう飽きた」
 板チョコならいくらでも食べられる気がするが、この食玩のチョコはちょっと癖のある甘さだ。そう言いつつも俺は二個だけ山の中から取って箱を開ける。
 部活を引退してからというもの、最近の放課後はいつもこうだ。学校のそばの公園のグラウンドで、延々と投げては打つを繰り返す野球モドキをしている三橋と村田を見守りつつ、原島にせがまれてチョコを開けている。世間の高三はもっと必死に勉強しているのかもしれないが、内部進学が決まっているので随分と呑気だ。
 これでいいのかな、と思いながらも次の目標が見つからなくてダラダラしてしまっている。
 まあ原島はアニメに嵌り、三橋と村田は野球を生きがいにしているので、ダラダラしているのは俺だけなんだろうけど。
「ていうかいつまで続けるんだよこのサル地獄」
「あと一個で次の抽選ができるはずだからー」
「ていうかチョコは捨てちゃえば?」
 サルのせいか部活をやめたからか、体重は増えたしニキビもできた。勘弁してほしい。
「それは人として駄目」
 部活をやめる前からデ……否、ぽっちゃり系の原島はきっぱりと要って掌をこちらに向けた。
 なら自分で食べればいいのに。
「なー、お前らもやろー」
「延々と二人で投げ合ってちゃつまんね」
 どうやって取ったのか結局見ていなかったが、三橋と村田がボール片手に戻ってくる。
「そういうお前らこそ食ってくれよー」
「やだ太る。お前食ってばっかりじゃなくて動け、いくぞ!」
 三橋が強引に原島の腕を引っ張り上げ、強引にグラウンドの方へ引きっていく。運動嫌いの原島の悲鳴が遠くなる。 
「川城は?」
「これ食ってからな」
「あきねぇな」
「いや飽きたよ……でもやることねぇし」
 ふうん、と村田は小さく首をかしげると、箱を取り、指を突っ込むようにして開封した。チョコに張り付く銀紙を、爪でひっかきながら剥がしていく。
 俺はげんなりしながら食べかけのチョコの中から、カプセルを取り出す。
「やることねぇのは今だけだしな、楽しもうや」
「そうかね。俺は刺激が欲しいよ」
 カプセルを割った。散々見せられたのでもうどれが出ても驚かない。
「あっレアサル」
 通算百一匹目となるらしいそのサルが、可愛らしい黒目で俺を見上げた。


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書いたの:2015/9/27フリーワンライ企画にて
お題:グラウンド 百一匹目のサル
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