友達はのっぺらぼう

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「あなたは、何?」
「君の偽物」
 背後で白い息を吐きながら私の顔がにたりと笑った。
 普通なら悲鳴を上げるシーンだろう。最初の内は私だってそうだった。だけどもう慣れてしまっている。
「……晴子、また私の顔真似して」
「だってさー、なんていうの、造詣が単純?」
「ぶつわよ」
「やーんこわーい」
 きゃらきゃらと晴子が笑って私の周りをくるくる回る。鬼さんこちら手に鳴る方に。私は一瞬本気で走って追いかけて、その肩を捕まえる。楽しげな悲鳴が晴子から洩れて、もつれ合って私たちは土手を転がる。
――助けて自分の顔が分からないの。
 去年の夏、彼女は自分の顔を失くしてしまった。曰く、悪魔に取られたという。
 以来幼い頃にみんなで撮った写真どころか、私たちの頭の中にさえ晴子の顔は残っていない。最初の内は目も口もないのにめそめそくよくよしていたのっぽらぼうは、そのうち、誰かの顔を写す力を得た。
 絶世の美女だったのよ、と自分すら覚えていない顔を、晴子はそう嘯く。
「あーあ。どうせ偽物なら代わりに学校に行ってくればいいのに」
 空を仰ぎ、私はそうため息をついた。
 のべつまくなし他の誰かの顔を模す晴子は、今や社会の輪から完全に外れて、学校にもいかず毎日ぶらぶらしている。暇だ暇だと言っているのだから、たまに入れ替わるくらいwin-winだろう。
「でも私頭悪いよ?」
「そうだった……」
 成績が下がるのは困る。
 起き上って土を払ってから晴子を見ると、そこに私の偽物の顔はなく、今は彼女のお母さんの顔を写していた。アレンジなどせず、完全なコピーしか出来ない彼女なので、友達といるというよりもおばさんと一緒にいるような、変な気分だ。
 似ていたのだろうかとふと思う。
――失礼ながら、だとしたら世間一般的に美人ではない。
「愛嬌は……あるかな」
「なにが?」
 推定アラフォー後半のおばさん晴子がにこやかに聞いてきたけど、私はなんでもないと口をつぐむ。
 瞬きすると、また晴子の顔が変わった。今度はテレビでよく見るアイドルの顔だ。こんな風に目の保養になるような美人でずっと居ればいいのに、さっきみたいに小母さんや私になったりすることが多い。
「美人は大変なのよ。作るのも、そう居続けるのも」
「ふうん、そんなもんなの?」
 納得しかけてから、気が付いた。
 それじゃまるで私が美人じゃないみたいじゃない! 


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書いたの:2018/1/28二代目フリーワンライ企画にて
お題:「あなたは何?」 偽物と本物 白い息 のべつまくなし
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