僕の彼女

TOP



 カーテンを開けると、朝から雨だった。
 昔から、この日だけは! と思った日に限って雨が降る。
「おはよー」
 夏休み中に告白し、付き合い初めて最初の登校日だってのに、ついてない。
 和(やわら)は真っ赤な傘を差し、派手な色の下でどこかアンニュイに見えた。まあこれはこれで、悪くない。
「おはよ。行こっか。スペコンの特訓した?」
 昨夜寝る前にラインで話題にのぼった、スペルをひたすら書かされるタイプの英語のテストについてを尋ねると、和はくああと大きなあくびをした。
「寝ずにやったよ。今頭振ったらアルファベットが出てくるね」
「ああ、眠そうだからそんな顔してるのか」
「それだけじゃ、ないけどさ」
 和は水溜まりを蹴りあげる。すでにスニーカーには雨が染みて、不快そうだ。
「雨だから?」
 尋ねると、和は少し首を傾げた。アルファベットは落ちてこなかった。
「太一郎は水溜まりになりたいって思ったことない?」
「えっないけど」
 唐突に何を言い出すのか。
 立ち止まれば後ろから傘を差したまま自転車に乗った女子高生に追い抜かれ、和はそれを視線で見送る。
「例えばほら、水溜まりだけは知ってるわけじゃん」
 遠い目をした彼女に、ろくでもない予感がした。
「何を?」
「あのおねーさんのパンツの色」
「うわぁ……」
 すごくコメント返しにくい。
「太一郎は何色だと思う? あたしピンクに賭ける」
「正解の分からないものに賭けようがないだろ」
 というか冷静に考えてスカートの下にジャージとか着てるんじゃないの?
 ついでに言うと今、和は水たまりの真上にいるわけで……一瞬俯きそうになった視線をなんとかギリギリで上に戻す。
「その他にもさー、水溜まりになれば女の子に踏んでもらえるわけじゃん」
「女の子以外にもな」
 どなたかこの辺りにいい頭の病院をご存じないでしょうか。
「あー水溜まりになりたい」
「和、今日は早く寝なさい」
「えっまだ朝なのに?」
 朝だからだよ!
 おかしいなぁ、夏休み中はあれほど離さないと誓ったのに、自信がなくなってきた。
「ほら、早く学校行ってスペルの復習しようぜ」
 話題を切り替えて先を歩く。「待ってよ」と慌てた声が後ろから追いかけてきた。
「冗談だよ」
 嘘っぽいことを言いながら和が腕にしがみついてくるから、可愛いと思ってしまった自分に呆れた。


TOP

書いたの:2015/8/21フリーワンライ企画にて
お題:水たまりだけが知ってる この日だけは 離さないと誓ったのに
Copyright 2015 chiaki mizumachi all rights reserved.