君と見る月

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「お前と見る月はちっとも綺麗じゃないな」
 今年最後の満月の日、忘年会の帰り道で珍しく二人きりになってから、緑郎が橋の上でぽつりと呟いた。
 頭上には雲の向こうにおぼろげな月が見えたけど、たしかに特に感動することもない、いつもの月だ。
「唐突に失礼なやつだな」
 だけど、緑郎にそんなことを言われたってちっとも傷つかなかった。
 これが目下片想い中の相手であり、バイト先の先輩である山科さんの台詞だったとしたら、今さっき解散したばかりの腐れ縁仲間全員をもう一度集めて、泣きながら朝まで飲みまくると思う。青桐が明日バイトで朝が早かろうが、乃絵が昨日から五日連続飲み会だろうが、なんとしてでも付き合わせて飲みまくる。
 でも、緑郎に言われたって「確かに」の一言で済む。小学校からの付き合いともなると、嫌いも好きなくなってくる。腐れ縁ってやつだ。
「そら彼女と見ればどんな月でも綺麗だろうよ。彼女となら」
「うるせ」
 白いため息をそこら中に吐き散らかす緑郎は、クリスマス前に彼女に振られたばっかりだ。プレゼントに用意したネックレスはやけくそで今日の飲み会の二次会でのカラオケの点数勝負の景品として提供され、今私の胸元にある。
「未練がましいなあ。最後までさんざんわがままに振り回されたのに、そんなに諦めつかないもん?」
「諦めはついてるけど、そう簡単に立ち直れねえよ」
「ふうん」
 そんなものかねと呟く。
 結局私は一度も会ってないけど、大学が同じな青桐の話だと、評判はすこぶる悪い。緑郎は面食いだからしゃーない、というのが彼の談だ。
「なに、そんなら二人で飲みなおそうか?」
 恨みがましそうな目に提案すれば、緑郎はくるりと背中を向けた。
「この先俺んちとお前んちくらいしか飲めるところねーだろ」
 因みにどっちも実家住まいで、せめて一時間前ならともかく、今はもうお邪魔するのもされるのも迷惑な時刻だ。
「ファミレスあるじゃん」
「もうラストオーダー過ぎてる」
「詳しいな、じゃあ諦めるか」
 背中に向けて苦笑して、私は早足で緑郎の隣に追い付いた。
「いや、コンビニでビールとさきいか買ってコンビニ前で飲もう」
「どこのヤンキーよ。凍死するわ。場所考えろ」
 アホな提案を返してきた緑郎にわざと足元の雪をかけるように蹴飛ばすと、それをよろけるように避けながら緑郎が口を尖らせる。
「お前らと飲むなら、どこでもウマイだろ」
 小学生の頃からあまり変わってない顔で真面目そうに言うものだから、思わず私は
「月は綺麗じゃないけどな」
 と憎まれ口を叩いた。


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書いたの:2016/1/10頃創作onewriteにて
お題:君と見る月はちっとも綺麗じゃない(レイラの初恋さまより)

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