レツゴー青春三妖怪

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「僕の心はいつも冷えきっているんだ。この凍えた心臓を取り出して、君の暖かい手で温めてほしい」
「きめぇ失せろ」


「……そりゃ玉砕するわ。きもすぎる」
「なんだよう! 僕は真剣なんだぞ!」
 にぎやかな教室の片隅、俺は購買で買ったジュースにストローを刺して、冷やかに啜る。
 電車で一緒になっただけの女の子にそんな告白をして見せたガルリアは、机に突っ伏した状態から、ちらりと視線をこちらにやった。
「なに飲んでんの」
「乙女の涙。失恋の味」
「お前の方がきもーい!」
「うるせぇうちの一族の主食馬鹿にすんな!」
 タブーを口にしたガルリアに、俺は思わずジュースのパックを握りしめた。ぴしゃりと透明な液体が机に飛び散る。
 ああ、勿体ない。
「吸涙鬼、ねえ……。しょぼいくせに微妙に吸血鬼とかぶせてきたところが腹立つな」
 零れた涙を指ですくったものの舐めるべきか考えた俺に、今度はガルリアの方が冷たい視線をくれた。
――ここ数百年、妖怪の混血化が進み、それにより新しい種族が派生し始めている。
 新妖怪と呼ばれる一派は今も肥大して、俺を含めてクラスの半数は一見普通でいて、全く普通じゃない習性をもつ妖怪たちだ。
「なんだっけ、垢舐めと子泣き爺から生まれたんだっけ。鬼要素どこだよ」
「ちげーよ垢舐めとバンシーだ!」
「おお、グローバルだなぁ。どっちにしろ鬼要素ねぇ」
 鼻で笑うガルリアだが、こいつだって両親は狼男と人魚だ。海で合コンしたらしい。残念ながら一世代では新妖怪と認定されないので、ただのハーフ扱いだけど。
「……話がずれすぎだ。ガルリアの特攻失敗の話ではなかったのか」
 俺の隣で、それまで俺と同じようにジュースパックを啜りながら話の成り行きを見守っていたデアリングが呆れた声を出した。
 同じように、とは言っても、泣き顔の女の子の萌え絵が描かれた色んな意味でキモさ爆発な『乙女の涙』(本当に乙女の涙なのか分からない。しょせん工場生産の量産品だ)ではなく、赤いパックのトマトジュースだ。
 どこの馬の骨とも分からない俺たちと違って、由緒正しい吸血鬼のデアリングは、安売りの輸血パックなんて吸わないのだ。一パック八十円の安売りのどこ産かわかんないトマトジュースは飲むけど。
「次はどうするんだ? 一言で引き下がるガルリアじゃないだろう?」
「うーん、とはいえフラれたばかりだしな。次は機会をうかがわないと。名前は聞けたし、制服はエキ女だったし」
 考え込むように言いながらガルリアはコンビニで買ったお菓子の袋を開く。食うかと差し出されたそれは、生爪チップスコンソメ味。俺うす塩派なんだけど、くれるなら有り難くいただく。
「なんだ、ガルリアならもっと押していくのかと思ったぞ」
 生爪チップスをパリポリしながら意外そうなデアリングに、チッチッとガルリアは人差し指を振る。
「押してダメなら引いてみろっていうじゃない。そういうデア様はー? 女の子と話せるようになった?」
「む。……今日は購買のおばちゃんと話せるようになった」
「それ自分で買ったんだ! 買えたんだ! デア様進歩したね!」
「ふふん」
「いやえばるような進歩じゃないから」
 俺が突っ込むと、二人はそろってため息をついた。
「ていうかデアリングはどうせ許嫁いるじゃん。おんなじ吸血鬼と」
「会ったこともない女と私が話せると?」
「ソウデスネ」
 血統書つきも中々大変そうだ。
「デア様イケメンなのにもったいない」
「ガルは話すと面白いのにな」
「こら傷口を舐めあうな」
 そして俺も褒めてくれ。これといった悩みも、色恋沙汰もないけど。男子校と自宅の往復だと、出会いなんぞそうそうあるもんじゃない。
 ため息が三つ重なると同時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


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書いたの:2014/11/30 フリーワンライ企画にて
お題:特攻隊 凍えた心臓
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