きっとそれも似合うだろう

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「鬼の攪乱だわ」
 布団にくるまって丸くなるオリガに向かって、カーテンを開けながらシィナが鼻で笑う。
「うっせえ」
 鼻声のオリガがすかさず言い返してますます布団の丸みが増す。池に落ちたんですって? と含み笑いで更に追撃すると、布団の中から枕が飛んできた。
「ラスボスは王子様だったのね」
 二人の通う魔法学校では卒業試験で個々に様々な難問が出される。ほとんどが魔法で解決できることで、シィナに出されたのは『色の無いバラ』を咲かせることだった。注文通りの透明な花弁を持つ薔薇のつぼみは膨らんで、今彼女の机の上で開花の時を待っている。対してオリガはというと――王子様の寝顔の写真を撮ってくること。
 最適解は念写だと、彼女の課題を聞いた誰もが思ったが、それはオリガには叶わなかった。城を守るこの国最高峰の魔法騎士団による厳重な魔法封じを突破できなかったのだ。
 自分ならどうするだろう、と枕を拾い上げながら頭の片隅でシィナは考える。教師陣が求めているのはやはり魔法封じの突破としか考えられない。やぱりそこをどうにかするしかないだろうか。もしくは、落第者に与えられる一度限りの再チャンスを信じるか。
 オリガはシィナの予想外の行動に出た。直接王城に乗り込んだのだ。魔法封じどころじゃないほど厳重に守られている場所だ。恐ろしいことにオリガはやってのけた。王子の寝室に入るところまでは、の話だが。
「どうするの、受けちゃう?」
「……馬鹿言えよ」
 息苦しくなったのか、オリガが布団から顔を出した。シィナはすかさず彼女の魔法で氷を作り出してから、袋に入れて彼女の額に置く。風邪を引いた同室など見るのは何年ぶりだろう。入学したころはどちらもよく熱を出していた記憶があるのに、それが少なくなったのがいつごろなのか、もう思い出せない。互いに文句を言いながら、よく面倒見合ったものだった。
――結果として、オリガは王子に見つかってしまった。
 衛兵を呼ばれて卒業どころか獄中行と思いきや、誰もが予想外のことが起きてしまった。
「まさかオリガに一目ぼれなんて、ねえ」
 王族の紋章のついた馬車で王子と一緒にオリガが学校に帰って来た時といったら。学校中上へ下への大騒ぎだ。
 おまけに今回のことについて不問にするから結婚してくれと言われたらしい。学長は気を失い急性胃潰瘍で入院、道中王子から逃げようとして池に落ちたオリガも熱で倒れた。
「じゃあ牢屋に行くの? というか最悪一族郎党処刑ものでは?」
「……それは困る」
 布団を口の上まで引き上げながら、ぎゅっと強く両目を瞑った。夢なら早く覚めてくれ、と言わんばかりに。
「出来レースだと思っていたわ……」
 毎年城内に関するお題はいくつか出るらしい。どれも期待された生徒たちへの難問だが、いくらなんでも無許可で実施するはずがない。むしろ魔法騎士団からの入団審査も兼ねているのだという噂がまことしやかに流れているほどだ。
「まあでも、ちゃんと試験はクリアしたのは流石ね」
「手ぶらでは帰れないだろ」
 提出された王子の写真をさらに念写したものを、シィナはそっと見下ろす。
――見目麗しい寝顔の王子が、そこに収まっていた。
 結婚しちゃえば、と軽い調子で言いながら、シィナはオリガの髪の毛をそっと撫でた。


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書いたの:2018/2/2二代目フリーワンライ企画にて
お題:ラスボスは王子様 鬼の攪乱 手ぶらでは帰れない
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