地縛

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 普段はうるさい蝉が、不気味に静かだった。
 私は誰も居ない河川敷に降り立って、夏草をかき分けて河原へと進む。あの時、足首までの高さだった夏草は今膝上まで伸びていて、歩くたびに素足をくすぐった。
 あの時、隣にはサクマとシグレがいた。否、あの時「まで」、私の隣には常にサクマとシグレがいた。双子のくせにいつも真逆のことを言い、けれど私のことを揃って好いてくれる、二人がいた。
 三人で笹舟を作って、川に流した。どこまで流れて行くか追いかけようと子どもみたいなことをシグレが言って、珍しくサクマも同意した。途中で私の笹舟が沈み、二人のもそう変わらない場所で沈んでいった。まるで未来を暗示しているようで私は悲しかったし、実際、それが私たち三人の最後だった。
 サクマは一週間後にいなくなった。シグレは更にその一か月後に。
 二人とも、隣の星への開拓民として旅立ってしまった。この星はもうダメだから、一縷の望みをかけて、貧乏で若い人たちはみんないなくなる。
 残ったのは宇宙船に乗れない老人と病人、それとまだ不便な星に移り住まずにも今のところはまだ生きていける、お金持ちだけだ。
――必ず迎えにくるから。
 サクマもシグレも、お父さんもお母さんもそう言ったけど、まだ誰も戻ってこない。
 開拓がうまくいっていないのか、それとも死病が蔓延したこの地に危険を冒して戻ってくるほど馬鹿ではなくなったのか、私にはわからない。
 はじめの頃は届いていた手紙も今は絶えている。
 足首まで川に浸かったけれど、冷たさは感じなかった。天を仰ぐと、遥か遠い宇宙を目指して今日も宇宙船が飛びだっていくのが見える。掴みたくて伸ばした腕は、当然届くはずがない。
 縛られたように川の中から動けない私は、ただ恨めしく、青空に白線をひくそれを見送った。


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書いたの:2016/1/4フリーワンライ企画お題使用
お題:笹船が行き着く先 夏草
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