昼間の真剣劇団60分対決

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「団長! お題が出ました!」
 私は団長室に飛び込んで羊皮紙を広げる。ちょうど羊羹を口に突っ込もうとしていた団長は、そのままの姿勢でぽかんと私を見た。
――この国には劇団が多すぎる。もっと実力のあるものだけに減らすべきではないだろうか。
 国王様がそんなお触れを出したのは、先月のことだ。
 たしかにこの国には劇団が多く、交差点にたってぐるりと見渡すと、場所にもよるけど最低五件は劇場を見つけることができ、商店街の壁は様々な公演のポスターで埋め尽くされている。
 そもそもは先々代の女王様が演劇好きで、国中のものたちに演劇の素晴らしさを説いた結果なのに……という私の感想は置いておいて、我が新見劇団がこの先生き残るには、国王が三十分前に発表したばかりの五つのお題を使用した演劇を一時間以内に考えてつくりだし、二時間で稽古、そして夕方六時には開演しなくてはならない。
「えーとお題は、夜明け、あふれてこぼれた、女郎花、東雲色の空、浮いている、か」
 脚本家と演出家、そして団長と副団長の私がお題を囲む。
 お題の方向性がまったく見えない。抽象的で、既存の話にエッセンスとしてお題を取り入れることしか思いつかない。
「早朝だな。とりあえず早朝の話だ」
「女郎花って秋の花でしょ? 今春じゃん! 用意できないよ!」
「花言葉は約束を守るだって。そこ攻めよう」
「あふれてこぼれるのは気持ちだつまり恋愛!」
「えー、牛乳でしょ」
「浮いてるのは何? 主人公が世間から浮いてるっていう皮肉?」
 なにせ脚本を作るのは一時間だ。稽古の時間を考えるともっと減らすべきかもしれない。
「つまりまとめると早朝に世間から浮いてる主人公が牛乳をこぼして約束を守る?」
「どんなはなしだよ!」
 会議は踊る。されど進まず。


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書いたの:2015/4/24フリーワンライ企画にて
お題:夜明け あふれてこぼれた 女郎花 東雲色の空 浮いている
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