姫巫女の呪い

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 姫巫女に選ばれた者はその時点で体の加齢が止まるらしい。
 栞奈が姫巫女に選ばれたと聞いた時、正直その時は羨ましいと思った。泣いて嫌がり、手当たり次第に物を投げつけて暴れた彼女を見て、どうして私じゃないのとも思ったし、周囲の女の子たちも皆概ね同意見のようだった。とはいえ、表立って彼女にそんなことは言えずに、非難するような囁きの雨が私の周りにだけ降り注いでた。
 だって私たち花の命は短い。あっという間に年を取って、おばさんになって、みすぼらしいおばあさんになるのはいやだった。
 どれだけ嫌がったって選ばれた時点ですでに栞奈の体の時間は止まってしまっていて、私がどれほど代わりを願ったって私の時間が止まるわけじゃなかった。
 先代の姫巫女から簪を受け取る引き継ぎの儀式の間中、栞奈は泣いていたけれど、姫巫女の簪を頭に挿した瞬間にまるで人が変わったかのように泣き止んだ。
 姫巫女が役目を終えて砂のように消えるのを目の当たりにして、諦めたのかと思っていた。簪を挿した直後、ぼんやりと見回したそのどこか遠い視線の先に、きっと彼女が恋い焦がれていた、今の私の夫がいたのだろうと思っていたけれど。
 それが本当に中の人格が入れ替わったのだと気が付いたのは、彼女が先代と同じように砂になり、私の孫が姫巫女となってもう二度と手の届かない遠くへ行ってしまってからだった。


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書いたの:2015/7/24フリーワンライ企画にて
お題:永遠少年(少女でも可) 囁きの雨 遠い視線の先に
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