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「欧米では、この症状を魔女の一撃と言うそうだ」
「はあ」
ベッドに横たわり、一ミリも動けないというこの状況で、隣人はいつもの真面目顔で言い、そして腰に響いたらしい。
「うっ、ぐっ……つまりこれは魔女に攻撃をうけたということになる」
「言っている意味がわかりませんけど、取りあえず黙って寝てたらどうですか」
あたしはため息をついて、持って来た粥をベッドサイドに置く。別に粥が必要な症状ではないが、こちらの方が食べさせ易いと思ったのだ。
匙ですくって、あーんとしてやると、大人しく松島さんは口を開いてむぐむぐと咀嚼する。
「どうです、おいしいですか?」
「うん」
にっこりと頷いてから、再び険しい顔をする。
「君が、魔法をかけたのか」
「んなわきゃないじゃないですか」
っていうか何のために。
確かにあたしは由緒正しい魔女である。ひいひいひいひい……とどこまで言ったかわからなくなるくらい遠い、欧米からやってきた魔女の血を引いているし、実際、多少なら魔法を使える。
けど、ぎっくり腰になるような魔法なんて使えないわ。
おじいちゃんの代から隣人として付き合いのある家の長男である、この風変わりな男性は、本当は魔法を信じていないくせに、悪いことばっかり魔法のせいにする。
「ていうか何をしてぎっくり腰になったんですか」
「……そこのダンボールを持ち上げたんだ」
部屋の隅に積んであるそれを視線だけで指した。一度持ち上げて落としたのか、角がつぶれている。
「お菓子を用意したのに……」
そう嘆いた彼の声は、とてもアラサーとは思えないほど、情けない声をしている。
中を覗きこむと、ぎっしりとお菓子が詰め込まれていた。チョコに飴にクッキーに……そこまで重たいものでもないだろうに、何がきっかけになるかわからないものだ。
「お菓子をくれなきゃいたずらするんだろう?」
「まあ、それが家訓ですし」
ハロウィンの日は、あたしの一族が一番張り切る日だ。普段は勝手に魔法を使えないけれど、今日だけはお菓子をくれない周りの人に、可愛いイタズラ程度の魔法を使うことを許される。お菓子を貰えて嬉しいし、貰えなくても楽しい。
一度魔法を鼻で笑った松島さんは、十年ほど前小学生のあたしにカエルに変えられて、相当参ったようだ。以来ダンボールいっぱいのお菓子を献上してくれる。
「だからあたしの魔法のせいじゃないですって」
歳だからですよと続けたら、松島さんは憮然とした顔をした。
一方あたしはダンボールを物色し、秋限定の新作チョコレート菓子を見つけた。松島さんの選んだ菓子に外れは無い。さすが、普段から限定商品と新作商品のチェックに余念がないだけはある。
あたしのために用意されたそれらだから、遠慮なく頂くことにする。
「お菓子もらいましたけど、イタズラしてもいいです?」
あたしは仮装にしか見えないおばあちゃんからもらったとんがり帽子をくるくると回しながら、 にやりと笑ってそう言うと、むすっとしたままの松島さんは「まだなにかするのか」と低く言う。だからあたしがかけたんじゃないんだってば。
「ぎっくりを治すっていうイタズラです」
松島さんはぽかんと口を開けて、間抜けな顔でこちらを見上げた。
あたしはお菓子の封を開けて、オレンジ色の栗味チョコレートを一つつまむと、その間抜けな口に放り込み、癒しの呪文を唱えはじめた。
書いたの:2014/10/31 フリーワンライ企画にて
お題:お菓子をくれなきゃ 魔女の一撃 君(あなた)がかけた魔法 ハロウィン
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