偶然は二度続かないから

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 灯台躑躅が咲くと思い出す。
 あの蒼い庭での出来事を。


―――


 朝から続いた雨は夕方にやみ、その夜は青白い月が庭を冷たい光で照らしていた。
 幼い私は物音に目覚め、窓に人影が踊った気がして庭に出て、その光景を呆然と眺めて立ちすくむ。
 真っ白い躑躅の上に、赤黒い液体が飛び散っていた。私の正面に、スポットライトのように月に照らされ、一人の化け物が蹲っていた。
「あら、残念」
 足元の水たまりに映るのは、私の姿のみ。
 真夜中の訪問者の姿はそこにはなかった。
「今お腹いっぱいなのよ」
 口元と白いブラウスの襟元をを躑躅を汚した赤と同じ色で染め、瞳も髪も銀色の少女が気だるげにそう言った。彼女の足元には、元がなんだったか分からない赤い塊が転がっている。
「私が満腹の時に出会った偶然に感謝なさい。いえ、恐れるべき?」
 凍りついた私の時の中で少女の姿は陽炎のように揺らいでいく。
「だからもう、二度と真夜中に外に出ては駄目よ」


―――


 庭の木々が風でざわざわと騒がしい。
 少女の言葉が脳裏をかすめる。偶然が嫌い。偶然は二度は助けてくれないから。
 なんとなく予感がして、私は庭から目をそむけて布団を頭からかぶった。


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書いたの:2016/4/8フリーワンライ企画にて
お題:偶然が嫌い ブルーガーデン 灯台躑躅 水たまりに映るは
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