ゴーイング三妖怪

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 どうしてこうなった。と思わざるをえないこの状況。
 狭い個室の真ん中に、辛うじてセミダブルのベッドが一つ。
 それを並んで見下ろす俺たち男三人。
「眠るなら一人が良い、そうは思わないか」
「右に同じ」
「文句禁止!」
 遮るように言えば、文句の代わりに枕が飛んでくる。
「誰のせいさー」
 じっとりとガルリアが俺を睨んでくるけど、正直三人とも同罪だ。
 なにせ三人ともポケットに現金がたいして残ってない。長期休暇の楽しい旅行、それも俺たち妖怪は滅多にこれない人間界だ。
 この日のために人間に危害を加えないかどうかの厳しい審査をクリアし、バイトで蓄えた十分な軍資金を持ってきていたはずなのに、何故こうなったのか――思い返すまでもない。
「デアリングが薔薇食べたいとか言うから! あとガルリアが女の子皆におごったりするから!」
「薔薇は血の代用食だからしょうがない」
「女の子かわいかったし! ってかトレーネだって飲みすぎ!」
 吸血鬼のデアリングは開き直り、女の子大好きなガルリアは俺に責任転嫁ときた。
 そっちがその気なら俺だって言い訳の一つぐらいしたい。
「だっておいしかっただろ。なんだっけ、モヒート?」
「あーあれ美味しかった。人間界の飲み物もたまにはいいよな。うちの世界にも持ち込んだら流行るよね」
 うんうんと頷いてから、はあとため息が三つ重なった。
 現実を見よう。現実を。この目の前の小さなベッドを。
「で、どうやって寝る? やっぱベッドで三人? そこまで仲良しこよしじゃないだろ……」
 寄せ集めた残金で辛うじて借りられた部屋がこれだ。フロントのお姉さんの引いた顔が脳裏にこびりついて離れない。
「仲良しじゃないとか寂しいこというなよ。旅行までしてるんだから仲良しだろー!」
「ガル、そういう問題じゃない。何が悲しくて男三人で川の字なんだ。一人ベッドで二人床でどうだ」
「で、それじゃあ、誰がベッド?」
 ガルリアの問いに、長い長い沈黙。
「俺」
「僕」
「私」
 嗚呼、フリーズから復活して綺麗にハモったあたり、確かに俺たちは仲良しだ。
「まあうん、誰だって床は嫌だろう。でもこのホテルは俺の名前で取ったはずだ」
「電話をしたのは僕だけど」
「フロントに交渉したのは私だ」
 三者三様の言い分に、思わず張り付いた愛想笑いを見合わせる。それっきり、みんな動かなくなってしまった。それぞれの出方をみている。
 狭いベッドの上で醜い陣取り合戦が始まるまで、あと一分。


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書いたの:2015/9/13フリーワンライ企画にて
お題:〇〇笑い(〇〇は自由=愛想) みんな動かなくなってしまった 眠るなら一人が良い 薔薇 モヒート
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