「お人形みたいね」
それは僕の七つ上の従姉、ゆうちゃんを褒めるときの常套句だ。
そう言われると、ゆうちゃんは必ずちょっと俯いてはにかむ。
それが猶更可愛らしくて、褒めた相手は思わず逆に照れてしまうのだ。
可愛いゆうちゃんは、みんなのもの。
僕はいつもそうやって、自分に言い聞かせる。
「本当にお人形になっちゃえばいいのにね」
ゆうちゃんの妹、れいちゃんが意地悪く言う。れいちゃんは、僕の知る限りじゃ「お人形みたい」なんて言われたことなんて一度もない。だってれいちゃんはゆうちゃんにちっとも似てないから。
「魔法使いに、人形にされちゃえばいいんだ」
隣町との堺にある古い洋館には魔法使いが住んでいる。僕ら小学生たちの間で今はやっている噂話だ。
ゆうちゃんがもし本当にお人形になったら――。
リビングの飾り棚におさめて、きっとうちのお母さんが毎日着飾らせるんだろうな。
きっと僕なんか、触らせてももらえないに違いない。
ぼんやり夢想したその一週間後、ゆうちゃんは本当にいなくなってしまった。
隣町に行くと言ってそれきり、帰ってこなくなったらしい。
いつからか、毎夜そっと学習机の一番下の引き出しを開けるのが日課になった。
隣町の雑貨屋さんで見つけた可愛いお人形。
セーラー服を着て、少しはにかんだ表情のお人形。
僕は今夜もそっと頭を撫でて、引き出しを閉じた。
書いたの:2016/1/30フリーワンライ企画にて
お題:お人形みたい
Copyright 2016 chiaki mizumachi all rights reserved.