バニラの雪

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「早乙女雪音です。雪女です.。どうぞ、よろしくおねがいします」
 夏休みも終わって、本州よりも一足先に秋の予感を感じ始めた二学期の始業式、ぼくらのクラスに転校生がやってきた。
 真っ白い髪に真っ白い肌、だけど頬がほんのり薄桃色で、紅い唇をした、とてもかわいい雪女の子だった。
「早乙女さんはどうして転校してきたの?」
「お父さんのお仕事が終わったから、おばあちゃんちのそばに来たの」
 聞けば彼女の一家は、真夏に涼を運ぶ仕事をしているのだという。なるほど天職だ。だって彼女の周りには、いつも涼しげな空気がただよっている。
 暑がりのぼくがつい引き寄せられてしまっても、許されてもいいはずだ。
「暑いの辛くないの?」
「うん、ちょっとつらい。今も、ほら」
 そう言って彼女は右手を差し出した。不思議に思って触れてみると、ひやっとしたもので指先が濡れた。
 汗ではない、と思う。少しベタベタしている。
「少し、溶けちゃった」
 はにかみながら、彼女は小さく舌をだす。
「秘密だよ」
 いたずらっぽく言うと、パタパタと足音を立てて教室から走っていった。
 
 あとでこっそり指を舐めてみると、バニラアイスの味がした。


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書いたの:2014/8/29 フリーワンライ企画にて
お題:転校生 溶けた
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