実家から手紙が来た。あちらに届いたものを転送してくれたのだ。
十年前、この手紙を出したころには実家を出るなどと思いもしなかった。 未来はいつも、私たちの想像も及ばないところに転がっていこうとする。理想に引き戻す力が、あるかないかだ。
――ずっと一緒にいようね
そこに書かれた果たされることのない約束に、ちくりと胸が痛む。
欠けた指輪は捨てきれず、宝箱の奥底に隠したまま。冷たく冷え切った私の指には、ようやく馴染んできた婚約指輪が光る。
私は明日、彼の元へ嫁いでいく。あの人の知らないまま、あの人の今を知らないままに。
――ごめんね。さよなら。
十年前の私が送った残酷な手紙は、はたして彼女のもとに届いただろうか。
書いたの:2015/3/13フリーワンライ企画にて
お題:10年前の手紙 欠けた指輪 冷たい指
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