失せ物・出る

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「見て見てミヤマちゃん、大吉」
 末吉のおみくじを見下ろしていると、横から姉が幸運を見せつけるように自分の引いたそれを私の目の前に広げた。
「……でも調子にのってるとすぐ落ちるって書いてるよ」
「えっうそ!」
 大吉の文字に浮かれて、中身をロクに読んでもいなかったらしい姉は慌てたようにおみくじを見返した。まさに姉にぴったりな文言なので、頭に叩き込んだら今年は気を付けていただきたい。
「もっとちゃんとよく見ておけばよかったー。待ち人来ないし、恋愛も我を出すとダメって!」
 数秒前のうきうきした顔はどこへやら、姉は急激に元気を失っていく。
 誰か待ってるの、と突っ込もうとしてやめた。
 それは多分やぶへびだし、彼氏ナシの私も人のこと言えない。
「休憩所でお茶いただいてこうよ」
「うん」
 私の方もあまり良いこと書いてなかったおみくじを結んでから、姉にそう提案する。スマホでおみくじの写真を撮っていた姉は、パッと顔を明るくする。
 市内で一番大きな神社だけれど、松の内も開けた今日は日曜とはいえ人もまばらだ。滑り止めの砂がばらまかれて黒くなった道を進んで、境内の中にある菓子屋に向かう。誰と来ても、ここには寄るようにしている。温かいお茶が無料だし、焼き立ての餡子の入ったお餅もおいしい。
 機嫌がよくなったのか少し前を歩く姉の足取りは軽くて、見ていると少し不安になる。
「姉さん、はしゃいでまた転ばないでよ」
 行きがけにマンションの前で滑って転んだばかりだ。あそこなら雪がつくだけだけど、ここで転んだら泥だらけになる。姉の着ている白いコートがどうなるか、考えるだけで恐ろしい。
「大丈夫! おみくじ、健康と失せものは良かったから!」
 ほらまたそうやってすぐに調子に乗るんだから。
 はらはらする私の心配をよそに、姉は今日も、いや今年もマイペースに行く。


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書いたの:2018/1/21二代目フリーワンライ企画にて
お題:もっとちゃんとよく見ておけば おみくじ
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