ケーキを食べる口実

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「どーれーにー、しーよーおーかーなー、かーみさーまの、いうとおり、好き、嫌い、好き」
「早く決めてよ」
「だってー」
 うんざりする私に、姉は口を尖らせて不服そうな顔をする。
 だってもさってもない。もう長いことこうやって悩んでいるのだ。店員さんに申し訳ないから、ガラスケースから離れたところうだうたやっている。
 十二月のケーキ屋さんは忙しいのだ。他にもお客さんはいるし、優柔不断な姉に長々付き合わせるわけにはいかない。
「っていうか好き嫌いとか……全部好きでしょ」
 そしてその法則では先に指したほうに決まる気がする。
「言葉のあやだよミヤマちゃん」
「あと三分で決めないと姉さんの分はチーズケーキとレアチーズケーキにするよ」
「どんだけチーズ好きな人になるの!?」
 待って待ってと姉が焦った声でガラスケースに向き直る。
 私は店に入って早々にショコラなんたら、というちょっと洒落た名前のチョコのケーキとモンブランに決めてしまったので手持ちぶさただ。
 ケーキが食べたい、と言い出して私を引っ張りだした姉を見守るのも飽きて、店内をきょろきょろと見渡す。
 クリスマスの名目でケーキを食べるにはにはまだ早いこの時期ではあるけれど、店内はクリスマス一色だ。まあ、今年もクリスマス当日はバイトだけど。
「決めた。ショートケーキとタルトにする」
 約束の三分をフルに使った姉は、ようやくそう宣言するなり、進み出て店員さんに声をかけた。


 ケーキの入った箱を私に手渡して、二人揃って外に出る。
 昨日の夜から降り、今もちらつく雪は根雪になりそうな気配だ。
「で、なんで突然ケーキ?」
 寒そうにマフラーに顔を埋める姉に尋ねると彼女はにんまり笑ってブイサインする。
「二キロ痩せたお祝い! あとミヤマちゃんのレポート修羅場が終わったお祝い!」
 嬉しそうに
「……私修羅場で二キロ太ったんだけどな……」
 とにかく何でもよかったんだなと察しながら、ピアニッシモの本音は深々と降り続ける雪にかきけされた。


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書いたの:2015/12/6フリーワンライ企画にて
お題:ピアニッシモの本音
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